電池を使わずにBluetoothやWiFiに対応した端末にデータ送信できる近距離無線通信技術をルネサスが開発

2011/06/14 02:00 木村 雅秀=日経エレクトロニクス
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110609/192453/?ref=ML

ルネサス エレクトロニクスは、電池を使わずに、Bluetooth無線LANWiFi)に
対応した端末にデータを送信できる近距離無線通信技術を開発した。環境電波から
回収した微弱な電力でデータ送信を行う。詳細を6月15日から始まる「Symposium
on VLSI Circuits」で発表する(論文番号:16-1)。

 今回の技術は電池が不要であるため、超小型のセンサ・ノードを実現できる可能
性がある。例えば、今回の技術と小型の体温センサを組み込んだ絆創膏を赤ちゃん
の体に貼り付ければ、1m弱の距離にあるWiFi対応のスマートフォンで赤ちゃんの体
温を常時モニタリングできる。また、今回の技術と小型センサをポスターに組み込
めば、ポスターの近くを通りかかった人のBluetooth対応機器に情報を送信するこ
とも可能になる。

 これまでセンサ・ノードでBluetooth無線LANを使おうとすると、無線送信回路
の消費電力が数十mWとなり、電池を搭載する必要があった。今回は送信回路の消費
電力を数μWと、従来に比べて3ケタ削減した。さらに、環境電波から10μW水準の
微弱電力を回収する技術を組み合わせ、この電力で送信回路を駆動することによっ
て、電池を不要にしている。

 数μWでデータを送信するために、次のような方式を採用した。まず、前提とし
てアクセス・ポイントから携帯機器に電波が送信されている必要がある。ここにLC
共振回路を搭載した今回の回路(センサ・ノード)を配置し、LC共振によって電波
を吸収させる。すると、アクセス・ポイントから携帯機器に直接電波が届くため、
通信状態は良くなる。これをセンサ・ノードが「0」信号を送信していると端末側
で解釈する。

 一方、LC共振回路をオフにすると、センサ・ノードで電波が反射されるため、ア
クセス・ポイントから携帯機器への通信状態は悪くなる。これを端末側で「1」信
号と解釈する。このように、センサ・ノードはLC共振回路によって電波を吸収させ
るか、反射させるかで、「0」「1」の信号を送信できるため、数μWの超低消費電
力化が可能になったという。

 今回の回路技術は、90nm世代のCMOS技術を使って製造した。性能評価用チップの
面積は220μm×200μm。プリント基板上に形成した直径15mmのアンテナと性能評価
用チップを組み合わせ、評価ボードを試作した。WiFi送信機から評価ボードまでの
距離が30cm、評価ボードからWiFi受信機までの距離が30cmの条件で、2.25k〜5.5k
ビット/秒のデータ伝送を実現できた。

 環境電波からの電力回収に関しては、最もエネルギーの高い周波数帯に自動的に
アンテナ感度を合わせ込む回路技術を用いることで、効率的な電力回収を実現して
いる。送信電力250mWのアクセス・ポイントから30cmの距離で電力回収を行った場
合、1.9GHz〜2.4GHzの周波数範囲で10μW前後の電力を得ることができた。

 実用化に関しては、顧客と実際のアプリケーションを想定しながら開発を行うこ
とが必須とする。ただ、技術的には2〜3年で実用化できる水準にあるという。